Lebesgue積分講義ノート

7.1. 動機づけ🔗

積分を測度論に帰着する第一歩として,有限個の区間に分けて定まる区分定数関数を考える.

[0,1]=A_1\sqcup\cdots\sqcup A_n,\qquad f(x) = \sum_{i=1}^n c_i 1_{A_i}(x).

ここで各A_iは互いに素な区間であり,値c_i0\le c_1<c_2<\cdots<c_n を満たすとする. この関数のRiemann積分は

\int_0^1 f(x)\,dx = \sum_{i=1}^n c_i\,m_J(A_i)

と書ける. これは定義域側の区間A_iを見て,その上の高さc_iを足し合わせる計算である.

同じ計算を,関数値の側から見直してみる. 値c_iを固定すると,c_iをとる点全体は

A_i = f^{-1}(\{c_i\}) = \{ x \in [0,1] \mid f(x)=c_i \}

である. したがって先ほどの式は

\int_0^1 f(x)\,dx = \sum_{i=1}^n c_i\,m_J\left(f^{-1}(\{c_i\})\right)

とも書ける. この形では,値c_iそのものではなく, その値をとる点の集まりf^{-1}(\{c_i\})の大きさを測っている. つまり,値域側で条件を指定し,逆像によって定義域側の集合に戻してから測度を適用しているのである.

この視点は,Riemann積分では扱えなかった関数を見直す手掛かりになる. Dirichlet関数 f_D = 1_{[0,1]\cap\QQ} は値としては01しかとらないが, f_D^{-1}(\{0\})f_D^{-1}(\{1\}) も境界が[0,1]全体になり, Jordan可測ではない. したがってJordan測度ではこの計算を正当化できない. 一方,Lebesgue測度\lambdaを用いれば

0\cdot \lambda\left(f_D^{-1}(\{0\})\right) +1\cdot \lambda\left(f_D^{-1}(\{1\})\right) = \lambda([0,1]\cap\QQ) =0

となる. もちろん,この式を積分として正当化するにはまだ準備が必要である. しかし少なくとも,関数値側の条件から生じる集合 f^{-1}(B) が測れることを要求すべきだ,という方針は見えてくる. これがLebesgue積分論において逆像が基本的な役割を果たす理由である.