Lebesgue積分講義ノート

6.7. Lebesgue可測性の限界🔗

ここまでで,Borel集合はすべてLebesgue可測であり (Theorem 6.6.3), Lebesgue測度はBorel測度の完備化として得られることを見た (Theorem 6.6.5). つまりLebesgue測度は,位相から自然に作られるBorel集合だけでなく, 零集合の任意の部分集合まで測れる.

しかし,選択公理を用いると,それでもなおLebesgue可測でない集合が存在する. その標準的な例がVitali集合である.

Theorem6.7.1
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Theorem 5.3.5
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Vitali. [0,1] にはLebesgue非可測集合が存在する.

Proof for Theorem 6.7.1
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[0,1] 上に x\sim y \Longleftrightarrow x-y\in\QQ で同値関係を定める. 選択公理を用いて各同値類から1点ずつ選んだ集合を V\subset[0,1] とする. q\in[-1,1]\cap\QQ に対し V+q:=\{v+q\mid v\in V\} とおく. もし q_1\ne q_2 なら (V+q_1)\cap(V+q_2)=\emptyset である. 実際,v_1+q_1=v_2+q_2 なら v_1-v_2=q_2-q_1\in\QQ なので v_1,v_2 は同じ同値類に属し,代表元の選び方から v_1=v_2, したがって q_1=q_2 となる.

また [0,1]\subset\bigcup_{q\in[-1,1]\cap\QQ}(V+q)\subset[-1,2] である. ここで V がLebesgue可測であると仮定する. Proposition 5.3.9により各 V+q も可測で \lambda(V+q)=\lambda(V) である. Theorem 5.3.5より

\lambda\left(\bigcup_{q\in[-1,1]\cap\QQ}(V+q)\right) = \sum_{q\in[-1,1]\cap\QQ}\lambda(V)

となる. もし \lambda(V)=0 なら右辺は 0 だが,左辺の集合は [0,1] を含むので少なくとも 1 である. もし \lambda(V)>0 なら右辺は \infty だが,左辺の集合は [-1,2] に含まれるので高々 3 である. どちらも矛盾するから,V はLebesgue可測ではない.

Remark. Lebesgue測度はBorel集合より広い集合族まで測れるが, Theorem 6.7.1により \calP(\RR^d) 全体を測れるわけではない. Vitali集合は,可算加法性と平行移動不変性を保ったまま すべての部分集合へLebesgue測度を拡張できないことを示している.

Theorem6.7.2
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Solovay. 到達不能基数の存在を含むZFCが無矛盾であるならば, ZFに従属選択公理を加えた公理系,すなわちZF+DC,のモデルで, \RR のすべての部分集合がLebesgue可測であるものが存在する.

Remark. Solovayの定理は,Lebesgue非可測集合の存在が 集合論の公理,とくに選択公理の強さに深く関わっていることを示している. 標準的な選択公理を仮定する通常のZFCではVitali集合が作れるが, 選択公理を弱めた世界では「すべての実数集合がLebesgue可測」と矛盾しない場合がある. ここでは証明せず,非可測集合の存在は単なる測度論内部の現象ではなく, 集合論的な現象でもある,という位置づけだけを押さえる.

Theorem6.7.3
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Banach--Tarskiのパラドックス. \RR^3 の球は有限個の互いに素な部分集合に分割でき, それらを回転と平行移動だけで組み替えることで, 元の球と同じ大きさの球を2つ作ることができる.

Remark. Banach--Tarskiのパラドックスも選択公理を用いる結果である. 分割片は通常の意味で体積をもつ集合ではないため, Lebesgue測度の有限加法性や平行移動不変性とは矛盾しない. むしろこの結果は,\RR^3 のすべての部分集合に対して, 通常の体積を拡張するような有限加法的かつ運動不変な測度を定めることができないことを強く示している.

Remark (任意加法性は強すぎる). Lebesgue測度は可算加法的であるが, 任意個の互いに素な集合族に対してまで加法性を要求することはできない. 実際,すべての1点集合は測度 0 であるから, もし任意加法性

\lambda\left(\bigsqcup_{\alpha \in \Gamma} A_\alpha\right) = \sum_{\alpha \in \Gamma} \lambda(A_\alpha)

が常に成り立つとする (右辺は有限部分和の上限として解釈する). すると

[0,1] = \bigsqcup_{x \in [0,1]} \{x\}

より

\lambda_1([0,1]) = \sum_{x \in [0,1]} 0 = 0

となってしまう. これは明らかに矛盾である. したがって,面積を正しくモデル化するには 「可算加法性」がちょうどよい強さである.